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つづき。
人間のごとき卑しい存在には、少し話が難しくなってきました。
もう少し現実的な話に戻しましょう。
この「流される」習慣は、人間の日常生活にどれほど影響するものなのでしょうか?
普通の人間でも分かる言葉で説明してください。
ワタシとしてはこの対話をこのまま天の高みに置いておきたいものだが。
そうでしょうね。そうすればあなたは自分の姿をさらさずに済む。
でも、話を地上に戻しましょう。
今度は、その「流される」習慣がアメリカという国にどんな影響を及ぼしているのか説明してください。
はっきり言わしてもらうが、私はアメリカという国がこれ以上ないというほど憎くてたまらないのだ。
それはおもしろいですね。で、その理由は?
それは1776年7月4日、66人の男たちがある文書にサインをしたことに端を発する。
それにより、私はこの国を支配するチャンスを奪われた。
そう、アメリカ独立宣言だ。
あの忌々しい文書さえなければ、今頃私はこの国を独裁者に統治させ、言論の自由や自発的な思考などという、地上に対する私の支配を脅かす権利はとっくの昔に廃止していただろう。
それはつまり、自ら独裁者の地位についたものはみな悪魔の仲間だということですか?
この世には、自ら独裁者の地位に就いたものなどいない。
彼らはすべて私が地位につけさせたのだ。
それだけではない。私は彼らを操り、彼らに何をなすべきか暗示した。
私の独裁者が支配する国は、求めるべきものが何か知っており、それを力ずくで奪い取る。
ムッソリーニを使って私がイタリアでしたことを思い出してみるがいい。
ドイツではヒトラーを、ロシアではスターリンを使って、いま私が何をしようとしているのか考えてみるがいい。
私の操る独裁者たちがそれらの国々を私にかわって支配しているのは、国民が「流される」習慣によってずっと黙らされてきたからだ。
私の独裁者たちは、決して流されたりはしない。
だからこそ、彼らは私にかわって何百万もの人間を自分の支配下に入れることができるのだ。
もし、ムッソリーニやスターリンやヒトラーがあなたを裏切り、あなたの支配を否定したとしたらどうなりますか?
そんなことは起こるわけがない。
なぜなら、私は彼らにたっぷりと賄賂を与えているからだ。
自分の意思で行動していると思い込ませ、それぞれの虚栄心をくすぐるのにぴったりの賄賂を渡している。
これが私のもう一つのトリックだ。
もう一度アメリカの話に戻って、あなたが私たちに「流される」習慣につけさせるため、どんなことをしているのか教えてください。
私は現在、人間の意識に恐怖と不安の種をまき、独裁国家への道を準備しているところだ。
そのために利用しているのは誰ですか?
主に大統領だ。
いま私は彼の意識を労使間の雇用契約の問題に向かわせ、彼の国民への影響力を弱めつつある。もし、あと一年彼をその状態に引き留めておくことができれば、国民の彼に対する信用は地に落ちて、この国を独裁者の手に渡すことができるようになるだろう。
また、スペインやイタリアやドイツやイギリスでやったのと同じように、このアメリカでも個人の自由を麻痺させることができるだろう。
どうもあなたが言っているのは、個人であろうと国家であろうと、「流される」のは一種の弱さであり、それは必ず失敗につながるということのようですが、それがあなたの主張ですか?
どんな階層の人間にとっても、失敗する原因で一番多いのは「流される」ということだ。
何か一つでも「流される」習慣を身に着けさせることのできた人間は、みな私の支配下に入る。
その理由は二つある。
一つは、「流される」人間はどこまでも私の言いなりで、私の好きなように形作ることができること。人間は、「流される」と、個人の自発性が破壊されるからだ。
二つ目は、「流される」人間は対抗勢力から援助を受けることができないこと。
対抗勢力は、「流される」人間のように軟弱で役に立たないもの惹きつけられることはない。
だから、裕福になれるのは一握りの人だけで、大半の人は貧しいままなのですね?
その通りだ。貧困は体の病気と同じように伝播する病なのだ。
貧困は「流される」人間の中には常に見つけることができるが、自分の欲するものを知っていて、それを獲得することを決意している人間の中には決して見つからない!
それは、「流される」ことのない人間(私は彼らを支配できない)と、世界のほとんどの富を握っている人間が、同じ人たちであることを思い起こしてみれば、そこに何か意味があるということがわかるだろう。
私はずっと、お金こそがすべての悪の根源だと思っていました。
そして、貧しいけれど従順な人は天国に行けて、金持ちは悪魔の手に落ちるのだと思っていました。
こういう意見については、どう考えられますか?
物質的なものを得ることのできる人間は、たいてい悪魔の手から逃れる方法も知っている。
何かを手に入れるという脳力は伝播性のものなのだ。「流される」人間は、他の誰も欲しがらないようなものしか手に入れることができない。
もし、物質的な富であろうと精神的な富であろうと、明確な目標と強い欲求を持つ人間が増えれば、私の餌食になる者の数は減ることだろう。
つまり、あなたは産業界のリーダーたちとは交友関係があるわけではないというのですね?どうも、彼らはあなたの友人ではなさそうですが。
私の友人だと?
彼らが私にとってどういう友人なのか話してやろう。
彼らは国中に道路網を張り巡らし、都会においても地方においても人間同士のコミュニケーションを密にした。
彼らは鉱石を銭に変え、それでもって巨大な骸骨のような摩天楼を築き上げた。
彼らは電気の力をさまざまなものに変換し利用することで、人間に考える時間を与えた。彼らはどんなにつつましい生活をしている者にも自家用車を与え、それによって人間は移動の自由を得た。
そして、彼らはラジオを使って、すべての家庭に世界中で起きていることを瞬時に知らせるようになった。
※さらに、いまではテレビ、スマーフォン、衛星放送、インターネットが加わる。
彼らはあらゆる市や町や村に図書館をたて、そこをたくさんの本でいっぱいにした。
それを読んだ人間は、経験によって蓄積された人類最高の知恵とはどういうものか簡単に知ることができるのだ。
彼らはどんなにつつましい生活をしている者にも表現の自由を与え、どんな内容のであろうと、いつでも、どこでも、虐待にあうという心配もなく、自分の意見が言えるようにした。
さらに、あらゆる市民が自分たちの手で法律を作り、自分たちで税額を計算し、選挙によって自分たちの国を運営できるよう気を配った。
このほかにも、「流されない」人間になるという特権を市民に与えるために産業界のリーダーたちがしていることはたくさんある。
そんな彼らが、私の目標を実現する手助けをしていると思うかね?
あなたが支配することのできない、その「流されない」人間というのは、いま生きている人の中から挙げるとすれば誰になりますか?
いまも昔も、私が支配しているのは自分で考えることをしない軟弱な人間だ。
中でも典型的なのはどういう人でしょう。私が見てもすぐわかるよう、一つ具体的に説明してください。
最大の目印は人生に大きな目標を持っていないということだ。
「流される」人間とは次のような人間だ。
・自信がないので、すぐそれとわかる。
・考えたり努力したりする必要のあることで、やり遂げたことはいままで一つもない。
・収入はすべて使い果たし、クレジットで買い物ができるなら、さらに使う。
・現実の、あるいは空想上の原因で病気になり、少しでも肉体的苦痛を感じると大声で喚き散らす。
・想像力がほとんど、あるいはまったくない。
・無理強いされない限り、どんなことにも熱意を持てず、自分から積極的にやろうとはしない。そして、可能な限り最も無難な方法をとることで、自分の軟弱さをはっきりと示す。
・すぐに機嫌が悪くなり、自分の感情をコントロールすることができない。
・人を強く惹きつけるような人間的魅力に欠ける。
・何にでも意見は述べるくせに、正しい知識は一つも持ち合わせていない。
・とりあえず、何でもできるが、何をやらしても大したことはできない。
・まわりの人間と協力しようとせず、衣食住の面倒を見てくれている人にさえ協力しない。
・同じ過ちを何度も繰り返し、失敗から学ぶことがない。
・いつでも心が狭く独善的で、自分と意見の合わない人間はすぐ攻撃する。
・他人からは親切にされることを常に期待していながら、そのお返しをすることはほとんど、あるいはまったくない。
・いろいろなことに手を出すが、全うしたことは一度もない。
・大声で政府を批判するが、その改善策を明確に述べることは決してない。
・決断することはできるだけ避け、無理やり決断させられたときには、最初の機会でそれを翻す。
・いつも食べ過ぎているくせに、運動はほとんどしない。
・他人がおごってくれるときだけ酒を飲む。
・天職についている人を非難する。
・簡単に言えば彼らは、他の人ならよい生活をしようと努力するところを、いかに考えないで済ますかに苦心する。
・何事についても、無知を認めるよりは嘘をつく。
・上司やボスに対しては、面と向かってはおべんちゃらを言い、陰にまわると悪口をいう。
つづく…。